おカルさん

おカルさん、伊佐坂さんちのおカルさん。
今日もハチとお散歩おカルさん。
ふと油断したすきにおカルさんの手からリードが離れハチが走り出してしまいます。
「これハチお待ち、戻っておいで」
そんな呼びかけもよそにハチはどんどん町中を駆け回ります。
おカルさんは追いかけます、どこまでもどこまでも。
ハチも走ります、どこまでもどこまでも。
おカルさんは息が切れ、眩暈を覚えます。
そのうち日もとっぷり暮れ、星の見えない街の中をネオンや電光の星々が彩り始めます。
どれも知らない文字でした。
「どうやら私はハチを追っているうちにどこかよその国に来ていたらしい」
と、朦朧とした頭でぼんやり考えましたがハチを追うことが先決でした。
異常に重い頭を抱えながら走っていたおカルさんはとうとうつまずいて転んでしまいました。
奇妙なことに擦りむいた腕から血が出ています。すぐに止まると思われた息切れも止まりません。
今まででは考えられないことでした。
何かがおかしい、そう思いながら周囲を見るとハチが少し離れた所にいてジリジリ鳴るネオンサインの看板を不思議そうに見上げていました。
おカルさんもその看板を見上げましたが、どうしてもその文字を読むことができませんでした。
白く光る「TOSHIBA」と書かれた文字を読むことはできませんでした。

出来なかったんです。